堤都篇物語解説

①護国:

 

1942年、皇国陸軍、東宗介少佐は、護衛を名目とした提庁内部調査及び牽制のため、護国附武官として提庁へ派遣される。

予てより護国なる役職は提庁により秘匿されており、海上防衛の要である変則的不可視国境線「能登」の使用権限を持つ人物が唯一護国であるということと、皇族の全面的承認を受けているということ以外は謎の存在であった。軍としては当然詳細を把握し能登を制御下においておきたかったが、天子の手前提庁に露骨に手を出すことは出来ずにいた。過去幾度となく軍からは護国附武官が送り込まれたものの、謎の事故や失踪によってその実態を掴めた者は一人もいなかった。東少佐も例に漏れず、護衛武官であるにもかかわらず護国に直接接触することすら阻まれ、目立った収穫を得られないまま月日だけが流れた。

 

②半身:

 

時は遡って1700年頃。提庁内で護国降ろしが行われた。前回と前々回の失敗を経て、皇国は実に200年振りに護国鬼を得る。

護国として迎えられたのは「斑」と「密」の二柱。苛烈で横暴ではあったが鬼としての能力は非常に高い斑。温和で慈悲深く護国として申し分ない資質を持つものの鬼そのものの力には乏しい密。二柱一対の特性をよく現した護国鬼たちだった。

1860年頃、堤庁は提庁十役筆頭家柊家の母体企業である東和重工の協力のもと、動力炉に護国鬼自身を使用する最初の変則的不可視国境線「能登」を開発。実装に向けて調整に入った。しかし、嘗て鬼となる前の人であった頃に受けた理不尽から護国でありながら人を酷く嫌う性質の斑は、自身や自身の半身である密が道具のように扱われることに反発。能登運用に関して提庁側と激しく対立した。そこで提庁は、密の「守護対象に懇願されると断れない」慈悲と慈仁の特性を利用し、斑を地下に拘束・封印する手助けをさせ、密を能登の炉にすることに成功した。

 

③鬼と人と:

 

1943年10月、もともと鬼としての力が十分でなかった密は、日毎目に見えて消耗していた。しかし、前年の棚浦(タナウラ)海戦での大損害により、今以上に能登の大規模展開を余儀なくされる。次回の戦闘で能登が使用される情報を事前に手に入れた東少佐は、護国を視認するため提庁深部へ潜入する。そこで見たものは、「鬼」という人外の存在だった。また、国防の最後の結界線が生体を動力炉として使用するという能登の構造的脆弱さに愕然とする。東少佐は大本営への報告のためその場から離脱を試みたが、提庁職員に気付かれてしまい追っ手の発砲によって瀕死の重傷を負う。遠のく意識の中で手を伸ばした先にいたのは護国「密」だった。(*無意識の「懇願」が作用)

密に命を救われた東少佐は、軍と提庁の間で板ばさみにあう。そんな中で二人は鬼と人という垣根を越えて友情ともとれる不思議な関係を築いた。

1944年、いよいよ敗戦が間近にせまりユニオン9との講和条約が水面下で進行される中、東少佐は大本営から護国を戦犯として引き出すために護国を拘束または場合によっては殺害を命令されるのだった。

 

④地下の御方:

 

東少佐は、最早敗戦の事実は覆らないまでも皇国の復興のため「反逆」と「逆転」の性を持つもう一柱の護国鬼の可能性を信じ、彼を地下から解放する決意をする。薄暗い地下牢の中対面した、地下の御方と呼ばれる護国鬼「斑」は、東少佐の提示した新代護国の役目と密の保護という条件を受けて出獄。世間的には不浄の一族とされ、1181年来の因縁の血族ではあるが潤沢な資金を持つ椿家へ接触を図る。最初の護国降ろし以来護国を崇拝する椿家の中でも特に護国に対して並々ならぬ思いを抱く十六代目当主「晃夜」は斑の申し出に飛びつき、提庁及び提庁系列の企業へ工作員を派遣する。一方東少佐に秘密裏に連れ出された密は、錆山へ送られ椿家で保護される。その後東少佐は出頭し椿家別邸の一室に一時謹慎が決まり、改めて沙汰を待つことになった。

1945年8月、ユニオン9との戦争は皇国の敗戦で幕を閉じた。皇国軍は解体され、かろうじて提庁は錆山勢の尽力で護国鬼と能登の秘匿には成功し、新たな体制へと動き始める。

 

⑤柘榴の庭:

 

1946年1月、東少佐は密の無事と弟の戦死を聞き届けた後、椿家別宅邸内にて割腹死する。

密は度々東少佐の助命と面会を請うたがそれが叶うことはなかった。

初期設定(没)

画集Ⅰ「石榴の庭」で描かれたものは初期設定。
物語の大筋に変わりはないが、「二柱一対での現界」という制約がなく斑の扱いが若干違う。柊派時代の堤庁によって斑が排除されたのは同じだが、禁則事項(守護対象の殺害)を破って肉体を失っており、敗戦目前に最後の手段として堤庁が護国降ろしをして再び現界する。しかし、自分を半身から引き離した堤庁に素直に従うわけもなく、またその怒りは密へも向いた。全体的に破滅を招く役割に徹していて、決定稿の設定のような東少佐に対するある一定の敬意や密への庇護欲といった感情は設定されていなかった。